イジワル副社長と秘密のロマンス
「あのっ、待って待って……私もね、実は今日からなの。先週まで表参道店で働いていました」
「うそっ! 私も北千住店で働いてたの! これってもしかして、新人秘書仲間?」
「そういうこと……だよね? 三枝千花です。よろしくお願いします」
異動が言い渡されたのは自分だけじゃなかった。彼女も一緒だ。
そうと分かれば、先ほど覚えた親近感に、仲間としての連帯感もプラスされていく。
「緊張しちゃうね」
6階に到着し、隣に並んだ星村さんに小声で話しかけた。顔を見合わせ、笑みを浮かべてから、私たちはエレベーターをそろって降りた。
観葉植物の置かれた廊下を進めば、すぐにガラス壁の仕切りが現れる。その向こうには、受付で電話を受けている女性の姿があった。
私たちが戸口をくぐり、受付前へと進み出るよりも先に、受付の女性は電話を終えて、立ち上がった。
緊張しながらそれぞれに自分の名を名乗ると、すぐに受付の女性は華やかな笑みを浮かべ、再び受話器を手に取った。
初日の今日は9時30分に出社し、まずは社長秘書の“宝さん”という方と話をすることになっている。
星村さんも一緒だろうかと隣りを見れば、彼女は受付カウンターの背後の壁に飾られている社名看板を、目を輝かせて見つめていた。