イジワル副社長と秘密のロマンス
透明のアクリル板に流れるような文字で“AquaNext”と書かれている。シンプルだけどとてもカッコいい。
学生のころに抱いていた、このブランドへの憧れの気持ちが、心の中に色濃く蘇ってくる。
私も一緒になって見惚れてしまっていると、かちゃりと戸が開く音が聞こえた。
ハッとし顔を向けると、年配の男性がゆったりとした足取りで歩み寄ってきた。
「社長秘書の宝です。三枝さんと星森さんですね。社長がお待ちですので、着いてきてください」
軽い微笑みと共に出た言葉に私は慌てて姿勢を正し、「はい!」と返事をする。
受付カウンター前から、ずらりとデスクが並ぶ部屋へと入り、静かに仕事をしている人々を横目で見ながら、通路を奥へと進んでいく。
宝さんが足を止め、重厚な扉をノックした。そこには“社長室”というプレートがつけられている。
すぐに部屋の中から「はい」と柔らかい声が返ってきて、宝さんの手によって戸が開けられる。
「どうぞ中へ」と言われ、緊張しながら社長室内へと足を踏み入れた。
窓際に置かれた観葉植物に水をあげていた社長が手を止める。そして、さっと傍に控えた宝さんへと水差しを預け渡した。