イジワル副社長と秘密のロマンス
「笑顔と物腰の柔らかさが好きですって言ってたよ。“和菓子屋 はかまだ”の次期社長としても、僕個人としても、彼女ほど理想の花嫁に近い女性はいないって」
ちょっと待ってと反抗的な感情はじわじわと湧き上がってくるのに、自分のことをそんな風に考えていたという事実の方が衝撃すぎて、うまく言葉にならなかった。
「それから……実は、千花のことずっと昔から好きだったんだって」
「えっ?」
「ずっと片想いしてたんだって」
ずっと片想い。
その言葉に共感が呼び起こされ、ちょっぴり心が沈んでいく。
「呆れるほど一途な者同士、もしかしたら気が合うかもしれないよ? 今日だけは……今だけでも、袴田さんを一人の男性として向き合ってみたら?」
「そんなこと……」
きっと、無駄だと思う。
仮に、袴田さんと付き合ったとしても……いつか絶対、袴田さんは彼じゃないから無理だと悟る時が来る。関係は続かない。
口ごもった私を見て、椿が眉根をよせた。腰に両手を添えて、凄みを効かせた顔を私に近づけてくる。
「厳しいこと言うけど、死ぬまでに会えるかどうかも分からない初恋の王子様をいつまで気にしてるつもり? 千花はもっと周りの男に目を向けるべきだよ。すごくもったいないことしてると思う。良い機会だし、今日ここで吹っ切るための一歩を踏み出してみても良いんじゃない?」