イジワル副社長と秘密のロマンス
「急な人事異動、申し訳なかったわね」
年齢を感じさせないほど素早い足取りで、社長が私たちの前にやってくる。
「これからは時代に合った事業展開も必要だから、新鮮な若い力をもっと取り入れるべきだと思ってね、私はあなたたちにお願いすることにしたのよ……宝、あの子たちを呼んできてちょうだい」
宝さんは「かしこまりました」と明瞭に返事をすると、私の近くにあるサイドテーブルに水差しを置いた。
身をひるがえした宝さんと、ばちりと目が合えば、その瞳が光を湛えた。
優しく笑いかけてくれた……というよりは、どちらかと言えば面白がっているような、そんな色合いが含まれているように見えた。
疑問と既視感が一気に湧き上がってきたけど、それをこの場で言葉にすることは憚れた。
社長室から出て行く宝さんの姿を目で追いかけながら、私は少し考え込んだ。
今の微笑みは何だろうという疑問が浮かび、それから、宝さんをどこかで見かけているような、そんな既視感にも囚われてしまった。
微笑みの意味は、全く見当つかない。
けれど既視感の方は、社長の店舗の視察に宝さんも秘書としてついてきただろうと考えれば解決する。私の記憶に色濃く残っていなかっただけだろう。