イジワル副社長と秘密のロマンス
「ふたりとも、来月から新体制になるのは把握しているわよね?」
社長の声が静かな室内に響き、私と星森さんの「はい」という返事が重なり合った。
「ふたりの孫に任せて、私は会長の座に退くことになってはいるけれど、目の黒いうちはまだまだ口を出すつもりでいるのよ」
社長はふふふと笑った。たぶんそのふたりのお孫さんのことを思い浮かべたのだろう。社長らしい凛とした表情から、お祖母ちゃんのような柔らかな顔つきになった。
「宝がこれから、あなたたちを指導することになっています。ゆくゆくは社長、または副社長の秘書として働いてもらいます。頑張ってちょうだいね」
再び私たちの返事が重なり合った。身が引き締まる思いである。
「宝は私の秘書ではあるけれど、最近は、孫ふたりのスケジュール管理もし、時々一緒に動いていたりもしています。今後しばらく、その状態のままでいきますから、宝からたくさん学びなさい。優秀な男ですよ」
所どころ、社長の言葉が頭の中に浮かびあがってくる。
宝さん。社長のふたりの孫。一緒に行動……。
ふっと思い出してしまったのは、地元のホテルで樹君と再会したあの時のことだった。樹君は、眼鏡をかけた男性と、年配の男性と一緒だった。