イジワル副社長と秘密のロマンス
ぼんやりと思いを巡らせ、私はドキリとした。
年配の男性が宝さんに似ていたような気がする。
はっきりと顔を思い出せないから、断言はできないけれど、記憶の中にあるぼんやりとしたその姿が、宝さんと似通っている。
似てる気はするけど……そんなはずがない。そんなわけがない。
自分の妄想に小さく首を振った時、ドアがノックされた。
「失礼します」
社長室に続けて入ってきた二人の男性の姿を見て、口が半開きになってしまった。妄想が現実へと変わっていく。
「こちらに来てちょうだい。紹介するわ」
隣に並んだ眼鏡をかけた男性へと、社長が手を差し向ける。
「次期社長の藤城翼と……」
次期社長と紹介されたその男性が軽く頭を下げてくる。私も咄嗟に頭を下げ返した。
続けて、社長の手が次期社長の横につけた男性へと伸びていく。
「同じく次期副社長の、藤城樹よ」
紹介された次期副社長……樹君が顔を上げた。
彼の視線がこちらへとゆっくり移動してきて、しっかりと目が合った。
私たちは驚きに目を見開いたまま、少し間、見つめ合ってしまった。