イジワル副社長と秘密のロマンス
副社長として、秘書として、2
そんな中でも、社長の言葉は続く。
「ふたりは兄弟でね、翼が兄で樹が弟なのよ。まだ若いふたりではあるけれど、私が自分の跡を任せられると思えるくらいに、彼らは良いものを持っているわ」
次期社長である眼鏡の男性のことは、はっきり覚えている。あの夜会った人で間違いない。
ということは、一緒にいたのが宝さんだということも間違いないと思う。それならば、先ほど向けられた微笑みの意味も分かった気がした。
そして、いくら聞いても、樹君が自分の職業を教えてくれなかった理由も、なんとなく見えてきた。
私が先に“AquaNext”の社員だと言ったから、すんなり身分を明かさない方が面白いとでも考えたのだろう。
樹君が社長のお孫さんだった。もうすぐAquaNextの副社長になる人でもある。
素性が凄すぎて、平凡な自分とは世界が違いすぎて、彼を遠くに感じてしまう。ちくりと胸が痛みだした。
先に我に還った樹君が、いつもと変わらぬ涼やかな顔を、社長へと向けた。
「社長、この二人は?」
「あなたたちの秘書よ」
樹君はほんの一瞬キョトンとした顔をしたけれど、すぐに視線を落とし僅かに肩を揺らしてから、にやりと笑った。