イジワル副社長と秘密のロマンス
「秘書、ね」
小さな声だったけど、彼がそう言ったのが、私にははっきりと聞こえた。
私はまだ驚きと戸惑いから抜け出さないというのに、彼はそこから脱し、状況を楽しんでいるみたいだった。
「……そうね。二人とも彼らに自己紹介してもらえる?」
顎に手をやり考える仕草をしながら、社長がそう求めてきた。私は星森さんと顔を見合わせてから、一歩前に出た。
「表参道店から来ました三枝千花です」
社長も、次期社長も、宝さんも、そして次期副社長も、私をじっと見つめている。
どきどきと緊張で鼓動が速くなっていく。
真っ白になりつつある頭の中で、どう続けようか考えたけど、すぐに浮かんでこなかった。言葉が途切れてしまった。
焦りながら、視線を彷徨わせれば、樹君とまた目があった。
力強さのある瞳が、柔らかく細められた。
大丈夫――……そんな風に言われたような気がして、私は息を吸い込んだ。気持ちを立て直す。
「表参道店では5年勤務しておりました。秘書の仕事は初めてではありますが、日々勉強し、一日でも早く、サポート役として力になれるように頑張ります。よろしくお願いいたします」