イジワル副社長と秘密のロマンス
なんとか止まることなく言い切って、私は深く頭をさげた。
緊張で上昇した体温にのぼせそうになりながら顔をあげると、「こちらこそ、よろしく」と樹君がタイミングよく相槌を打ってくれた。
ホッとし、私は一歩下がる。
入れ替わるように星森さんが前に出て、自己紹介をし始める。私と違って淀むことなく言葉が流れていく。緊張していないみたいだ。羨ましい。
緊張が解ければ、周りの様子が見えてくる。
社長も次期社長も宝さんも、今は星村さんへと視線を向けていて、時折頷きながら言葉に耳を傾けている。
けど、副社長は……樹君は、そうではなかった。
星森さんの話に耳を傾けることもなく、私を見ていた。
口元に微かな笑みを湛えたまま、じっと、私だけを見ていた。
+ + +
宝さんと共に来客の対応したり、下請けに確認の連絡をしたり、上階で午後から行われる会議の準備をしたりと、あっという間に時間が過ぎていく。
午後から宝さんが会議に同席しているため、私と星森さんは、週末にある商談のための資料を作成し終えてから、大量に届いている手紙のチェックをしていた。
社長室と副社長室の間にある秘書室で、もくもくと目の前の仕事をこなしていると、星森さんが小さく息を吐いた。