イジワル副社長と秘密のロマンス
温かい言葉が嬉しくて笑顔で答えると、藤城次期社長がわずかに眉根を寄せ、私を見つめ返してきた。
数秒黙り込んだ後、その口元に笑みを浮かべる。
「ごめん。引き止めちゃったよね。会議室の片付けで来たんだよね? よろしく」
真剣な顔をしていたのに、急におどけた口調でそう切り出してきた。私はぎこちなく、頷き返す。
「はい……で、では……失礼いたします」
軽く手まで振ってくれている次期社長にお辞儀をし、私は会議室へと進み出す。軽くノックをし声をかけてから、室内に足を踏み入れた。
並べられた会議テーブルの上に飲み終えたカップがポツポツと置かれているのを流し見て……部屋の奥に人影があることに気が付き動きを止めた。
すらりと長い身体を屈めて、机上に片手を突き、手元に広げ置かれた資料に視線を落としている。パラリと紙がめくれる音が微かに響いた。
「……樹君」
思わず名を呼べば、樹君が顔をあげた。その綺麗な瞳で私を捉え、口角をにやりと上げる。
「5分だけ、休憩しようかな」
腕時計で時間を確認してから、そんなことを呟いた。彼は姿勢をただし、肩周りをほぐすように、腕を伸ばし出す。
「あぁ。疲れた」
「お疲れ様、です」