イジワル副社長と秘密のロマンス
気安く話しかけそうになり、慌てて言葉を付け加えた。彼は副社長になる人で、私はただの秘書。仕事中は絶対にそのことを忘れちゃいけない。
仕事をしよう。気持ちを切り替えて、私は再び室内を見回した。
テーブルも会議に合わせて移動してあるし、椅子も乱れている。まずはテーブルの上に乗っている使用済みのカップたちを回収するべく、壁際にある簡易テーブルへと向っていく。
そこに置いてあるトレーを掴み取り、手近の会議テーブルに進んでいく。
トレーにカップを乗せていると、そっと後ろから抱き締められた。
「千花」
甘い声にトクリと鼓動が跳ねた。
「いっ、樹くん……あっ、違う。藤城副社長……その、こういうことは……やめた方が……だって、仕事中ですし」
きっちり線引きすべきだと訴えかけようとしたけれど、上手くいかない。
抱きしめる力加減、背中から伝わってくる逞しさ、彼に包み込んでくる体温。
耳をくすぐる彼の微かな笑い声、息遣い、その全てが私の鼓動を速め、身体を熱くさせていく。
冷静でいられなくて、敬語を使いたいのに口調がごちゃごちゃになってしまう。
「仕事中? 違う。さっき言ったでしょ、五分休憩するって。だから俺、今、休憩中」