イジワル副社長と秘密のロマンス
頬を引きつらせながら、私はカップを片付けていく。
テーブルを渡り歩きながら彼の視線を感じ、ちらりと目を向けると、彼は背もたれに肘をつき頬杖をついて、やっぱり私を見ていた。
片付けという簡単なことをしているだけなのに、思わず力が入ってしまう。見られていると変に緊張してしまう。
カップでいっぱいにしたトレーを持ち上げ、ゆっくりと簡易テーブルに戻りながら、私はぽつりと話しかけた。
「ずっと忙しそうだなって思ってたんだ……だけど、樹君の忙しさはこれからが本番なんだよね。もっと忙しくなるんだよね」
そっと、トレーをテーブルに置き、代わりに台ふきを掴み取る。
「私、もっともっとスキルアップするから! いつか宝さんみたいな秘書になれるように頑張るから! しっかりサポートできる秘書になるから! だから樹君も頑張ってね!」
台ふきを握りしめ、つい熱くなってしまった。
言い終えると、一気に恥ずかしくなってくる。
気恥ずかしさを誤魔化すようにムキになって台を拭いていると、視界の端っこで樹君が立ち上がったのが見えた。
「そろそろ仕事に戻ろうかな」
「今日はまだまだ仕事終わらなさそう?」