イジワル副社長と秘密のロマンス
「久しぶりに会ったから、食事にでも行きたいところだけど……もうちょっと片付けておきたいんだよね」
「今度約束してるから、その時まで大人しく待ってる。頑張ってね」
テーブルを拭きつつ、ふふっと笑って言葉を返すと、樹君が歩き出した。
そのまま会議室を出て行くのだろうと思っていたのに、彼がすぐ後ろから「千花」と囁きかけてきた。完全に不意を衝かれてしまった。
足音も立てず、いきなり後ろから囁きかけてきて、しかもまた抱きしめてきた。びっくりして変な叫び声を上げてしまった。
樹君が深く息を吐いた。きつく私を抱きしめてくる。
文句を言おうと思ったけど、疲れているのが伝わってきて、何も言えなくなってしまった。
彼が動き出すまで、腕の中に収まっていよう。
そう思い、私を抱きしめているその腕に、そっと片手を添えた瞬間、樹君が笑った。
「仕事に戻る前にキスしていい?」
「しっ、しない! 私は仕事中だってば!」
樹君の腕の中から出ようともがいていると、突然、「やっぱりなぁ」と別の声が聞こえてきた。
ハッとし戸口に顔を向けると、そこには藤城次期社長が……樹君のお兄さんが立っていた。