イジワル副社長と秘密のロマンス
“なぜそこに?”から“いつからそこに?”へと疑問が変わっていく。
会議室に入る前に彼と会っていることを思い出せば、“樹君とのやりとりを、最初から見られていたかも”と頭から血の気が引いていく。
やましいことはなんにもしていないけれど、実際、樹君にはしっかり抱き締められている状態なわけで、何を言っても苦しい言い訳にしか聞こえないだろう。
「俺、キミのこと見たことあるよね?」
納得するように頷きながら、樹君のお兄さんがこちらに向かって歩いてくる。
続けて、私の地元である地名と、あの日会ったホテル名と、ついでにレストランの前で樹が口説いてた子ということまで事細かに事実を並べていく。言い逃れなんかできない。
「ふたりともどういう関係なのかな? 隠さず教えてもらえる? 場合によっては、三枝さんを秘書から外すよ?」
私たちの前で足を止めた樹君のお兄さんが、厳しい眼差しを向けてくる。
秘書から外されるのは嫌だ。私はこのまま仕事を続けたい。
行く末の不安と恐怖で足が竦んだ時、きゅっと、私を包み込む腕に力が込められた。
「関係? 恋人だけど?」
“恋人だけど、何か文句ある?”みたいな口調で、樹君がお兄さんに鋭い視線を返している。