Forecast -Mystic Cafeへようこそ-
「あの、ミスティ先生はいませんか?」

玄関のベルが鳴り、ドアの向こうから声がする。
私は顔の見えない黒いフード、マントを羽織り


「どうしましたか?」


と静かに2階から姿を現す。
いつものお決まりのパターンだ。

ここでは話しにくいでしょう等と言いながら、
客間に声の主を誘い出し、話を聞くのも
お決まりのパターン。

着いた客間は、大の大人が3.4人
寝転んでも狭いと感じないであろう広々とした部屋。
机にはタロットを広げやすいよう深い紺色の布が
敷かれている。

ふかふかのソファーへ座るように促し、
ポケットにあるタロットカードを手に
向かい側のソファーに腰を下ろす。

今回の尋ね人は黒いサングラスをして、
黒髪のぐしゃぐしゃ頭。ちょびひげがちらっと見える
面白い感じの男性のようだ。Cafeに飲食に来た、と
言うには程遠い先端が丸い円形になった杖を横に
置いているが、それほど歳よりにも見えない。

「あの、実はお願いがあるんです」

男は続けた。

自分の妻が病に倒れ、もって一ヶ月との事。
手は尽くしたがどうすることも出来ず、
せめて夢の中だけでも願いを叶えられるのならと
噂を聞き付けこのCafeにたどり着いたとの事。

私はこう問い返す。

「貴方が本当に望むなら星のカードの精霊に
願いを叶えてくれるようにとお願いすることは出来ます。ただし...代価、悪夢を頂きます」

「悪夢?」

男は素っ頓狂な拍子で聞き返す。
そして私はこう続ける。

「貴方が今叶えたいのは奥様の病気の完治ではなく
願いだけでも叶えてあげたいという優しい思い。

その気持ちにタロット達は共鳴しています。

数日間、貴方の望みが強ければ強いほど
怖い夢や奥様の病気からくる痛みを軽減させ、
お二人に安心を運んでくれるでしょう。

ただし、タロットは治療の為の道具ではありません。
望みを叶える事は出来ても、根本的な解決策には
ならないでしょう。それでもよければ
念じなさい」

「それで妻の気持ちが救われるなら」

男は必死に縋り付いてきます。


私はタロットを広げ、いつもの呪文を
歌うように小声で呟く。


(---私の秘めたるタロットよ、
問いに、強気思いに応えたまえ。
オンバサッタルマ キリソワカ)

瞳を閉じ、閉じていた瞼を開けると依頼者には
見えないタロットの精が姿を見せ、彼の前に座る。

今回は節制。

意味は安定、調和
バランスを現すカードである。

カードの精霊、スライドがカードの中から
ゆっくりと彼の「悪夢」を吸い取る。

ここまで話すと私は悪魔払いをするものと
勘違いされそうだが、私の仕事は
悪意を善意に変え、少しでも病気になりそうな人や
そのご家族の心を守る事である。ちなみに占い基
呪術はそれを人々に説明するのが面倒だから
形だけそういうことにしている。

悪夢には三種類ある。


一つは実質型。

実際身の回りに起きた出来事が不安要素となり
何も手に着かなくなる、そんな邪気に身体が
乗っ取られている状態。

二つ目は感染型。

これも周りに起きた出来事、が不安要素となるのだが
実質型とは違い、悪夢に乗っ取られているのは
依頼者である本人、則ちここによく尋ねてくる人物
そのものである事が多い。今回の依頼者は
このケースに属しているだろう。
感染型は本人が悪夢に乗っ取られていると
思いもしていないから、本人に何かしようとすると
抵抗する事が多く、非常に面倒くさいタイプとも言える。

三つ目は夢見型。

何も原因がないにも関わらず、トラブルがあると
自分は何かに囚われているんだ!と思い込み
相談に来るケース。こういう人に対してはあまり
強い気を持つカードを出すと依頼者本人を
実質型にしてしまう恐れがあるため慎重に安心させ、
解決に運ばねばならない。

さて、説明よりも見た方が早いわよね?
いっちょやっちゃいますか。
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