拾われた猫。




私の声に反応して、こちらを向いた時だった。



いつも険しかった彼の顔が穏やかに微笑んだ。


───雨。



お父さんの声が確かに私の名前を呼んだ。


初めて私の名前を呼んで、初めて私に笑いかけた。



左之の腕から逃れようともがくけど、逃がしてはくれない。



片手を伸ばした瞬間、刀がお父さんを斬りつける。



私の手には緋い液体が飛び散る。


それとほぼ同時にお父さんはその場に倒れた。



行き場のない手を下ろすことも忘れて、その様子をボーッと眺めていた。



心臓がドクンッと変な音を立てた。


動かなくなった彼は〝絶命〟したのだ。



確かめなくても、これまでに何度も見てきた光景だから分かる。



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