拾われた猫。



「雨、飯持ってきたよ」

「…あぁ…うん」




平助に生返事を返す。


しばらく私をじっと見つめていたけど、他の隊士に呼ばれて行った。




平助がいる間、花から一度も目を移さなかった。



足音が私の部屋に近づく度、彼らが来てくれたんじゃないかと勘違いする。


そして思い知らされる。



彼らはもういない。


私が彼らの姿を見ることはもう無いのだと。




あの時伸ばした手にはもう血液の跡は無い。


それなのに、あの時散ってきた血液の温かさも、徐々に冷たくなっていく柔らかい肌の感触も全部残っている。



あの時、あんなに痛かった胸がもう痛くない。



苦しかったのに、もう普通に息が出来る。



なのに、何で動揺が消えてくれないのだろうか。



< 206 / 443 >

この作品をシェア

pagetop