拾われた猫。
「左之?」
不安になって彼を呼ぶ。
彼は悲しそうに「ん?」と笑って、私の手をギュッと握った。
違う。
そんな笑みが見たいわけじゃない。
私には彼の悲しみの理由は分からなかった。
ただ、彼は私を通して何かを見ているのだろう。
それだけは分かった。
胸が少しだけ痛む。
彼の名前を呼ぶだけで、何も声をかけることが出来ない。
自分がもどかしい。
彼が自室へ帰った後も、私を見る彼の悲しげな表情は頭から消えなかった。