拾われた猫。
「……やめときなよ」
私の一言で睨まれる対象が変わる。
私に視線が移った時、平助と呼ばれる男が睨まれるのとは比にならないくらいの殺気が込められた。
「屯所っていうの?
この中では私には誰も敵わない。
怪我人が出ないうちに私を解放した方いいんじゃない?」
平助と呼ばれる男の肩を片手で軽く押し、一歩前に出る。
しばらく、私と土方と呼ばれる男の睨み合いが続いた。
その時、パンッと手を叩くような音が邪魔をした。
「まぁトシも落ち着きなさい」
変わらず穏やかな表情を浮かべていた近藤と呼ばれる男は、私の横に立って微笑んだ。
「君の名前を聞いてもいいか?」
「……香月雨」
この状況にそぐわない質問に素直に答える。
ここにいる全員、この男の質問に訳が分からないという顔をしていた。