拾われた猫。



「……お父…、芹沢さんはよくここに来たんですか?」



お父さんは、もう居ない。


でも、まだ少しでもあの人たちを近くに感じたくて聞いた素朴な質問だった。



彼は私の顔を見た。



「……あやつは死んだんじゃろう?」



細い目に見抜かれて、私の言葉はどうにも紡げなかった。


それでも逸らすことなく、彼の目を見た。


すると何かを感じたのか、目を湯呑みに向けた。





「茶を飲みによく来ておった。

……この茶はな、儂の死んだ嫁がよう淹れてくれた味なんじゃ。

あの男はいつもその茶を飲んではたった一言、『良い茶だ』と言っておったわ」



お父さんの姿がそこにあるように目に浮かんだ。



冬流さんにとって思い入れのある大事な話を私に切なそうに話してくれた。



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