拾われた猫。




「何口説いてるの?」



どこかに行ってしまったはずの総司が戻ってきていた。



真っ黒な冷たい笑みを左之に向けていた。




「総司こそ、盗み聞きか?」

「僕は永倉さん呼びに来ただけだよ。

土方さんが呼びに行けって言ったから仕方なく来たら、雨ちゃんが左之さんに口説かれてるから」



チラリと私を見たけど、すぐに逸らしてまた左之の方を見た。




「だとよ、新八。

ついでに報告と外出のことも頼んだぜ」




私の腕を掴んだ。


それと同時にもう一方の手を掴まれた。



反射的にそちらを見ると、総司が眉を寄せて私を見ていた。



自然と見開いた目は総司から離せなかった。

悲しみと怒りが瞳の奥から垣間見える。



そうこうしていると、茫然と動けなかった私の手を離して背を向けてしまった。



「永倉さん、行くよ」


いつもの雰囲気で新八の襟を持って、後ろで文句を言う彼を完全無視しながら連れ去って行った。



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