宛先は天国ですか?
「ねえ、聖也、手は離そう?」
声をかけると、ハッとした聖也がぱっと手を離してくれた。
力が込められていたからか、若干ズキズキする。
「悪かったな」
申し訳なさそうな顔をして、視線をそらして謝る聖也に、わたしは大丈夫だと首を振った。
職員室に用事があるなら、わざわざ手を引かなくても、ついてきてと言えばついていくのに。
一体どうしたのだろうと思いながら、聖也の隣に並んで歩き出す。
立ち止まってしまった聖也の方を振り返り、
「早く用事済ませて、早く帰ろうよ」
そう声をかけると、聖也はふと笑みを浮かべて「そうだな」と笑った。
それからまた、歩き始める。
職員室前、扉を開けることをほんの少しためらってから、聖也はコンコンとノックをした。
「…失礼します、1年2組の田辺 聖也です。
早野先生はいらっしゃいますか?」
聖也のすぐ後ろについていたわたしは、その名前に、一歩後ろへ退いた。
しかし逃がさまいと、聖也がわたしの腕を素早くつかむ。