宛先は天国ですか?



パタパタと、聖也が追いかけてくる。

わたしが肩を叩いた人は、驚いたような顔をしてゆっくりと振り返った。

それから、相手がわたしだと気付くと、ふにゃっと安心したような笑みを浮かべる。


「なんだ、佐川さんですか」

ホッと胸をなでおろす彼に、「こんばんは」と挨拶をする。

すると彼も、「こんばんは」と先ほどより余裕のある声で挨拶を返す。


「将太さんは、お仕事中ですか?」

声をかけると、将太さんは「そうだね」と言ってふふっと笑った。


…当たり前なんだけど、将太さんの仕事中の姿って初めて見た気がする。

微笑む将太さんの立ち姿を、上から下までまじまじと見つめる。


…仕事をしてる人って、やっぱりかっこいいな。


「…その、頑張ってください、」

会話が続かなくて、適当に応援の言葉を投げかけると、将太さんはクスッと笑みをこぼした。

「佐川さんもいろいろ、頑張ってください」

それだけ言って去っていこうとする将太さん。


…なんか、忘れているような…。

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