宛先は天国ですか?



…え、わたし…?

まさか聞き返されるとは思わず、ぴたっと動きを止めてしまう。

…いやでも普通は聞かれたら聞き返すものだよね。


口の中に入れたものを噛んで、ゴクンと飲み込む。


「わたしは、その、彼氏とか、いたことないですから…」

モゴモゴと小さな声で答えると、将太さんは意外そうな顔をした。

そんな顔をされてもいないものはいない、というよりいたことがない。


小学校高学年、ふと気が付けば将太さんからの手紙に恋をしていた。

将太さんからの思いやりのある手紙が、ずっと好きだった。

好きだったから、天国からじゃないと知ってからも手紙を送り続けたんだ。

それからここまで、他に好きな人ができたことがないからもちろん、誰かと付き合ったことなんてない。

告白されたこともないわけじゃないけど、付き合ったことはない。

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