月うさぎの戯言
「しっかし下界のガキは、相変わらずお花畑だな」

 しぶしぶ臼に薬草を放り込みながら、イエが言う。
 ナキはちらりと下界に目をやった。

「月ではうさぎが餅搗きしてるってか」

 けけけっと笑うのはイエと同じ。
 そして何の前触れもなく、杵を振り下ろした。

「いでぇ! 馬鹿か! まだ俺の手が臼の中にあるっつーの!」

「とろくせぇんだよ! 大体何でいつまでも中に手ぇ突っ込んでんだよ!」

「薬草は揉んだほうが、後が楽なんだよ!」

「お前は変なところで生真面目なんだからなぁ。そんなもん搗いてしまえば同じだろ」

「お前は雑過ぎる! いいか、搗く前によく揉んでおくと、搗く回数も少なくて済むんだ……て、おい! 聞けよ!」

 ずがん! と振り下ろされる杵を辛くも避けながら、イエが叫ぶ。
 が、ナキは喜々として杵を振り被った。

「下界のガキが夢見てるんだろ? イメージを壊しちゃ悪いだろうが」

「そんな悪代官みてーな笑みを浮かべて杵を搗くうさぎなんざ、誰もイメージしてねーよ!」

「知ったことかよ。こちとら毎日毎日米搗きバッタでこき使われてんだぜ。それでもガキのイメージ第一で行動してやる俺様に、せいぜい感謝しやがれってんだ」
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