肉食系御曹司の餌食になりました
寂しいのかな……。
もしかしてアルフォルトに通ってくるのも、Anneを落として遊んでやろうと企んでいるだけじゃなく、上下関係なしでマスターと話せるのが楽しいからなのかもしれない。
思わず同情を寄せていたら、急に彼の口の端が吊り上がり、ニヤリと笑った。
「私に同情しているような顔ですね。
それなら、今日の昼食は支社長室でご一緒に」
「え、どうしてそうなるんですか!?」
「寂しい私に同情して下さるのでしょう?
それなら亜弓さんが側にいて、私を慰めればいいという話になりますよね」
「待っーー」
「では後ほど、ご連絡します。私からの呼び出しには、すぐに応じて下さいね」
反論する時間を与えず、踵を返す彼。
優雅な足取りでルックス抜群のスーツの後ろ姿が遠去かり、廊下の角を曲がって消えていった。
私はまた智恵に給湯室に引っ張り込まれ、密室内で尋問タイムに突入する。
「ちょっと亜弓、私に話してないことあるでしょ!?」
「ない、よ」
「うそだ! あんな自然に腰に腕を回すとか、頭撫でるとか、楽しそうな会話の駆け引きとか、絶対に今まで色々とあったでしょ!」
腰に腕を回されるに至る展開は自然じゃないし、会話の駆け引きを楽しんでいるのは彼ひとりで、私は困らされているんだけど……という反論は聞いてもらえそうにない。
興奮中の智恵に壁ドンされて冷や汗をかきながら、「退社後に話すから。ブラカリ・ロッソで」と仕方なく答える。
取り敢えず今は仕事に戻らないと。
取引先から午前中に連絡が入る予定だし、長時間抜けると本当に部長に怒られるよ……。