肉食系御曹司の餌食になりました

なんとか残業を一時間に抑えた私は、智恵と一緒にすすきのの雑居ビルの八階にあるイタリア料理店、ブラカリ・ロッソに着いた。

予想通り、平日の店内は半分しかテーブルが埋まっていない。

親世代が若かりし頃、人で溢れていたというすすきのも、今はそれほど景気はよくなくて、客の取り合いとデフレ合戦を繰り広げている。

でも客としては空いている店で、値段手頃の美味しい物を食べられるのはありがたいことだ。


小綺麗で明るい店内には、ボーカルのない往年のジャズが流れている。

アルフォルトと違い音量は控え目で、会話をしていればメロディに意識が向かない程度だ。


通された席は窓際の四人掛けボックス席。

安っぽく見えるからボックス席のある店を好まない人もいるようだけど、私はそう思わない。

荷物を置きやすく、くつろげて気取っていないところがボックス席のいいところだと思う。


ウェイターにボトルの白ワインと、アンティパストの盛り合わせを注文する。

まずはおつまみ程度のもので乾杯して、それからゆっくりメニューを選びたい。

すぐに運ばれてきた前菜を前に、ワイングラスを軽くぶつけた。


「智恵、婚約おめでとう」

「うん、ありがとう。で、亜弓は?
早く支社長との関係を白状しなさい!」


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