肉食系御曹司の餌食になりました

ピアノ伴奏から始まり、ドラムとベースが加わる。

ジャズのオフビートのリズムは、なんて心地いいのだろう。

黄みがかったライトを浴びながら、私は本日の一曲目、古いジャズの名曲を歌い始めた。



一回目の約三十分のステージを終えて楽屋で休憩し、時刻は二十時四十分、二回目のステージの時間になる。

一回目はお客さんの反応もよく、気持ちよく歌えた。

マスターにも『今日はいつもより声が乗ってるね』と評価してもらえて、自分でも調子のよさを感じている。


二回目のステージの一曲目は『 All or Nothing at all 』。

私の敬愛するジャズ界の歌姫、アン・バートンが歌うこの曲を、CDで何十回聴いたことか。

Anneという私のステージネームも、アン・バートンから勝手に拝借して付けたものだった。


All or Nothing at all ……愛に悩む男性の心を描いたこの歌詞を、しっとりしたメロディに乗せて歌い上げる。

私の声はアン・バートンのような深みがなく、軽く聴こえがちなのが残念に思う。

でも今日は、いつもよりこの曲に似合う声を出せている気がして、気持ちいい……。


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