肉食系御曹司の餌食になりました
「こちらもどうぞ」と言われて、またしても彼のフォークから食べてしまったのは、牛すね肉の赤ワイン煮込み。
口の中でホロホロと解けていくような肉質が気持ちよくて、うっとりしてしまう。
「美味しい」と頬を綻ばせたら、彼がクスリと笑う。
「少しは私に心を開いてくれたでしょうか?」
「え?」
「今日はすみませんでした。昼食に誘っておきながら、仕事の予定が入っていたのを失念しておりまして。その挽回に、こうして駆けつけたわけですが」
私のグラスに赤ワインを注ぎ足しながら、急に謝る彼。
形のよい眉は済まなそうにハの字に傾いていても、口元には隠し切れない意地悪な笑みが浮かんでいる。
注いでもらったワインを飲みながら、彼の言葉の裏を読み取ろうとしていた。
数日後のスケジュールを忘れていたというなら納得できるが、今日のスケジュールを把握していないなんて、有能と言われるこの人に限って有り得ない。
だからアレはわざとで、私の心を乱して楽しんでいたというのが正解だ。
嘘を見破ったつもりで、ワイングラスをテーブルに戻すと、横目でジロリと彼を睨んだ。
「違いますよね?
本当は全て計算の上ですよね?」
ラムチョップに刺そうとしていたフォークをピタリと止めて、無言でこっちを見る彼。
その口元は、今度はハッキリと分かるほどにニヤリと笑っていた。