肉食系御曹司の餌食になりました
意外だと言わんばかりの感想に、私も頷いた。
中身は獲物を選ばない肉食獣なのかと思いきや、昨日の彼は見た目通りの紳士ぶりで、もしや本気で私との交際を考えているのかと一瞬だけ考えてしまった。
すぐにAnneにも迫ってくる人だと思い直したから、彼の作戦に引っかからずに済んだけど。
建物に入れば、その話はもうお終い。
社員の誰かに聞かれて、変な噂が立つと困るから。
総合ビルのエントランスに一歩足を踏み入れると同時に別の話題に切り替えた私達は、エレベーターホールに向かった。
出勤時間の今、エレベーター前には十人ほどの列ができている。
その最後尾に並んで雑談していた。
「それでね、今度の日曜なんだけど、なに着て行こうか悩んでるんだ」
「あれ? 先月も智恵の大学時代の友人の結婚式って言ってなかった?」
「だから困るんだよ。集まる顔ぶれが先月と同じだから、同じ服で行きたくない。でもまた買うのもね……」
なるほど。私なら同じ黒のワンピースで、ストールやアクセサリーを変える程度でよしとするけど、お洒落な智恵はプライドが許さないわけか。
でもふた月続けてパーティドレスを新調するのは、お財布的に痛いよね。
アルフォルト用のステージ衣装でよければ貸すけどと、口には出さずに思っていたら、誰かに斜め後ろからポンと肩を叩かれた。