肉食系御曹司の餌食になりました
なにを企んでいるのか聞こうとして振り向いたけど、支社長は階段の方へ歩き出していて、もう後ろにはいない。
ちょうどエレベーターが一階に止まり、人に押し流されるよう乗り込んでしまったので、更に彼との距離が開いた。
扉はすぐに閉まり、ルックスのよいスーツの後ろ姿が視界から消える。
気になる言葉を残していなくなるなんて、また私の頭を彼のことでいっぱいにしようと企んでいるのか……。
あの人は本当に策士だ。
前と同じ作戦に引っかかる自分にも、同じように呆れているけれど。
支社長のことをなるべく考えないようにと戦いながら午前中の仕事をこなし、昼休みも過ぎた。
地味色パンツスーツに黒のショルダーバッグを肩にかけた私は、十三時半に会社のビル前に立っている。
そこにアサミヤ硝子の社名を付けた営業車が一台、ハザードランプを点灯させて路肩に停車した。
運転席には支社長が座っていて、私は助手席に乗り込む。
目的地は札幌の中心地を南西に逸れた円山という地区にあるブライダルプロデュース会社で、社名は『ブライダルハウス・ロマンジュ』。
道路が混んでいたとしても、二十分もあれば着くだろう。
ウィンカーを上げて走行車線に走り出た営業車はマニュアル車で、スムーズにシフトチェンジを繰り返し、広い国道に出ると景色がビュンと後ろに流れた。