肉食系御曹司の餌食になりました
店内奥へと案内されながら、「素敵なデザインのドレスですね」と花村さんに話しかける。
彼女は営業スマイルで「ありがとうございます」とお礼を言ってから、秋の新作であることや特別なレースを使用していることなど、ドレスについての説明を加えた。
その後に「平良さんもお年頃ですよね。一度ご試着いかがですか?」と白いドレスを勧めてくる。
「いえ、私には結婚の予定も相手もいませんので、ウェディングドレスは……」
綺麗だと思うけれど、純白ドレスに特別な憧れはない。
私の場合そういう気持ちは、彼氏ができて、その人との将来を考えるようになってから初めて湧くような気がする。
乙女心が足りなくて申し訳ないが、試着する気になれない。
白よりはむしろ、ワインレッドのカラードレスの方が気になる。
裾の広がりが半分ほどに控えめなら、アルフォルトのステージ衣装として着れそうだと考えていた。
花村さんの勧めに「いつか機会がありましたら、ロマンジュさんにお世話になりたいと思います」と、当たり障りのない返答をする。
すると、それまで黙って隣を歩いていた支社長が、営業用の人当たりのよい笑みを浮かべて私に言った。
「その機会とは、意外と間近かもしれませんね」