肉食系御曹司の餌食になりました
万が一の場合とは、あのカップルが直前になって『やっぱり結婚やーめた』と言い出した場合を指すと思うけど、その対応策を既に考えてあるということだろうか?
それなら是非、その対応策を聞かせてほしいところ。
しかし支社長は花村さんに頭を下げて、帰りの挨拶を始める。
「では我々も引き上げます。本日はお時間を取っていただきありがとうございました。引き続き、ご協力よろしくお願い致します」
私も隣で頭を下げて「ありがとうございました」とお礼を口にし、営業車に向かう支社長の半歩後ろをついて行く。
ウズウズする気持ちを抑えきれず、助手席に座るや否や早速聞いてみた。
「キャンセルされた場合の秘策があるんですか?」
支社長は駐車場から車道へとスムーズに車を走らせながら、「そうですね」と事も無げに答えた。
「教えて下さい」
「教えません」
「どうしてですか?」
この人に任せておけばきっと大丈夫という漠然とした安心感はあるけれど、一緒に企画を進める私にも説明してくれないとは、どういうことなのか。
彼はクスリと笑うだけで私の質問には答えようとせず、「ほら、次の目的地に着きますよ」と話題を逸らした。