肉食系御曹司の餌食になりました
私の体を離した彼は、エスコートするように、張り出した肘を私に向ける。
その仕草は紳士的な容姿の彼には極自然に見えても、地味な私には無理がある。
エスコートされるようなお嬢様ではないし、恋人でもないのに腕は組めない。
「足元に気をつけて歩けば、もう転ばないと思うので大丈夫です」
そう言って断り、半歩横にずれて彼との距離を開けると、小さな溜息をつかれた。
「亜弓さんが大丈夫と言っても、距離を離されると、私の方は大丈夫とはいきません」
そんな意味深な台詞を言われた直後に、スーツの腕が伸びてきて、背中と膝裏に回される。
視界と重心が傾き、両足が砂利道からふわりと離れた。
「し、支社長!?」
突然横抱きに抱え上げられて慌てる私に、彼はニヤリと口の端を吊り上げる。
「これなら、歩き難さも転ぶ心配もありませんね」
普段見ない角度で彼の顔を見上げ、自分の心臓が耳元にあるような錯覚に陥りながら、心で反論する。
転ぶ心配が消えても、他の心配が湧く。
いい男にこんなことをされては、こんな私でも恋へと気持ちが流されそうで、非常に心配なんですが……。