肉食系御曹司の餌食になりました
棚の上には色取り取りのコップや小鉢、花瓶などが並べられていて、細工の凝ったプロが作った物から、明らかに体験希望の初心者が作った物まで様々だ。
興味本位で棚に近づいた私は、素人が作ったコップや皿を眺めて「支……先輩の作品はどれですか?」と聞いた。
すると「これです」と言われ、指差された物に目を見開く。
「ワイン用のデキャンタです」と彼が言う作品は、一リットルほどの液体が入りそうな無色のガラスの容器で、持ち手が付けられていた。
その持ち手はリアルで精緻な馬のガラス細工。
絶対にプロの職人が作ったはずだと思い込んでいた作品が、支社長のものだと知り、唖然としてしまう。
「もの凄く器用なんですね……」
「ありがとうございます。亜弓さんは普通のコップを作りましょうか」
もちろん一番簡単なもので。
昔から図工は苦手で、ガラスではなく粘土細工だったとしても、馬は作れない自信がある。
室内は夏のように熱く、スーツのジャケットを脱いでブラウス姿になり、貸してもらったエプロンを着て軍手をはめた。
「こちらへ」と言われて溶解炉に近づく。
彼が足元のペダルを踏むと金属製の扉が開いて、熱気の吹き出す炉の中が見えた。