肉食系御曹司の餌食になりました
熱と炎の滞留する炉の中には、ドロドロに溶けたガラス液が溜まっている。
吹き竿と呼ばれる長い金属の筒をその中に入れ、先端にガラス液を巻き取ると、彼は竿を器用にクルクルと回しながら吹き口を私の顔へと近づけた。
「亜弓さん、吹いて下さい。
一度目は強く吹かないと、膨らみませんから」
そう言われ、息を思いっきり吸い込んで筒の中に吹き込むと、先端のガラス液がプクッと風船のように膨らむ。
「さすが、肺活量ありますね。お上手です。
次は色をつけましょう。何色がいいですか?」
「えーと、じゃあ青で」
支社長は竿を回転させながら、バケツの中の青いガラスの粒を表面に纏わせると、また炉の中に入れて、もう一度ガラス液を巻きつける。
「そこに座って下さい」と指示され作業台の横の椅子に座ったら、フェイスタオル大の濡れた新聞紙の束を手の平に乗せられた。
その上に、今炉から出したばかりの真っ赤で熱々なガラスを乗せようとするから驚いてしまう。
「大丈夫です。熱さは感じませんので、新聞紙を信じて」
「は、はい」
新聞紙というより支社長を信じて濡れ新聞紙を構えると、熱々のガラスが乗っても確かに熱さは感じなかった。
竿を回転させながら、濡れ新聞紙の上にガラスを押しつけるようにして形を整える支社長。
その目は真剣かつ楽しそうで、釣られて私も緊張感の中に徐々に楽しさを見つけ出していた。