肉食系御曹司の餌食になりました
ガラスが卵形になったら、竿を渡される。
「回しながら炉の中に入れて下さい。
次に引き上げた後、もう一度、息を吹き込みますよ」
「はい!」
隣に彼がピッタリついて指示してくれるので、熱いガラスへの恐怖は消えている。
言われた通りに炉で熱してから引き出して、吹き口をくわえた。
二回目は「すぐに膨らむから優しく」と言われ、慎重に息を吹き込み竿を回転させる。
「いいですよ。その調子です」
その後はコップの底の形を整えたり、大きなピンセットで飲み口を開げたりと、幾つかの工程を経て無事に青いまだら模様のコップに仕上がった。
ガラス細工は時間との勝負で、思い切りが必要みたい。
せっかく形になったのに割れたらどうしようとドキドキしたけど、支社長の上手なサポートのお陰で、その緊張感さえ楽しめた。
大型冷蔵庫みたいな形の徐冷炉に作品を入れてもらって、体験はこれでおしまい。
一晩かけてゆっくり冷まして、受け取りは明日以降ということだ。
徐冷炉の扉を閉めると緊張から解き放たれて、「はあ〜」と温泉に浸かったときのような長い息を吐き出す私。
それは私に似合わない仕草だったのか、支社長がプッと吹き出し、目を細めて笑い出す。
私だって気を抜きたくなるときがあると思いながらも、気づけば楽しい気分で、支社長と一緒に笑っていた。