肉食系御曹司の餌食になりました

「初体験はいかがでしたか?」

「とても楽しかったです。
緊張と完成したときの喜びと、そういう感覚は久しぶりで」

「それはよかった。私は時々この工房をお借りしているのですが、宜しければ、また一緒に来ませんか?」


『是非』と言いそうになり、ハッとして口をつぐむ。

もう一度やりたい気持ちはあっても、支社長と一緒というのは危険な香りがして躊躇する。

彼の魅力をこれ以上知りたくない。

知れば後戻りできない深みにはまりそうで、怖かった。


「いつか機会がありましたら……」と曖昧に答えると、彼の表情が微かに曇る。

不機嫌にさせたかと気まずくなっていたら園辺さんがやって来て、徐冷炉を覗いて「お、上手くできたね」と言ってくれたから助かった。


「聖志くんも作ってくのかい?」

「いえ、今日はこれで失礼します。
この後、園辺さんのステンドグラスを見に行こうと、教会に連絡を入れてありますので」

「お、見てくれるのか! 嬉しいな〜。
久々の超大作だから、じっくり見て、今度感想聞かせてよ」


園辺さんが作った教会のステンドグラス……それが聞かされていない、今日ふたつ目の予定みたい。

これもガラス関係で、今回のマリアージュという企画の参考になるかもしれないから、仕事の内に入れてもいいよね?

なんだか支社長とデートしている気分で、落ち着かないけれど……。
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