肉食系御曹司の餌食になりました
「見学のお願いをしていた、麻宮と申します」
『ああ、麻宮さんですね。ちょっと今、手が離せませんで……。扉は開いてるんで、どうぞ入って下さい。結婚式のご予約じゃないんですよね?』
「残念ながら違います。ステンドグラスを拝観させて頂きたいだけです」
『ご自由にどうぞ』
ウェディングの予約なら、やりかけのなにかを放り出しても、喜んで駆けつけたということだろうか?
とても正直な対応に、私達は顔を見合わせて苦笑いしつつ、両開きの扉を開けてお邪魔した。
誰もいない、静かで小規模な礼拝堂。
天井はアーチ型で壁は白塗り。
中央のバージンロードを挟んで左右に十列ずつ並んだベンチタイプの長椅子と説教台、それから十字架も木製で、白とダークブラウンで統一されたシンプルモダンな内装だった。
そして正面の十字架を挟むように、二枚のステンドグラスが……。
支社長と並んでゆっくりと近づいていき、説教台の前で足を止めた。
「綺麗……」
上部がアーチ型の縦に細長い二枚のステンドグラスには、ミュシャの絵画のような雰囲気を持つ聖人がひとりずついて、その周囲は草花をモチーフに色取り取りのガラスで装飾されていた。
左側は寒色系の色味が多く、右は暖色系。
ガラスって、こんなに美しい物だったのかと、目が覚める思いでいた。
ガラスを商品に仕事をしていても、そこに芸術性を感じる機会がなく、最近ではすっかりガラスの美しさを忘れていた気がする。