肉食系御曹司の餌食になりました
支社長も隣で「美しいですね」と溜息交じりに呟いていた。
「はい。とても」
「この感動を、あなたと共有できて嬉しいです」
ステンドグラスを通して、壁や床に降り注ぐ光も美しい。
数歩進み出て、その光の中に身を浸してみる。
すると心が洗われるような気がして、余計な思いが抜け落ち、今ばかりは素直な心が現れた。
「連れて来て下さって、ありがとうございます。私も支社長と一緒に見られて、嬉しいです」
目線はステンドグラスに留めたまま、気づけばそんな言葉が漏れていた。
「亜弓さん……。他に来訪者もいないので、少し話をしましょうか」
支社長はそう言って、最前列のベンチに腰を下ろし、私にも座るように手で示す。
素直に従い隣に座ると、彼の左手が私の右手をそっと包んだ。
途端に胸の中がざわめき出す。
戸惑いがちに彼を見つめると、穏やかな優しい視線が注がれた。
「手を繋ぐだけです。神様の前で不埒な行動は取りませんのでご安心を」
そうなんだ……。
ホッとした後に、なぜか残念に思う自分もいて、その気持ちを読まれないように視線をステンドグラスに戻した。
支社長もステンドグラスに向いて、静かな声で語り出す。