肉食系御曹司の餌食になりました
「欲しい物もなく、将来の夢もない……」と、彼は呟く。
「夢も、ですか?」
「そうです。アサミヤ硝子に就職して父の後を継ぐものと思って育ちましたから、夢を持とうとしませんでした。
そんな可愛げのない子供が成長し、つまらない大人になったというわけです」
ステンドグラスから視線を外し、『つまらない大人』と自己評価する彼をじっと見てしまう。
視線は合わず、ただ前を見つめて話すだけの彼。
うちの社員、特に女性からの評価は高く、憧れの視線を注がれる彼なのに、彼自身の評価が低いのは可哀想に思う。
『そんなことないですよ』と言ってあげた方がいいのだろうか?
でも、私ごときが慰めるような言い方は、目上の彼に失礼な気もするし、納得させられる自信もない。
言葉に詰まり、ただ綺麗な横顔を見つめていたら、「しかし」と彼が続きを口にした。
「こんなにつまらない私ですが、最近になってようやく、やりたいことを見つけました。
いつか、園辺さんのように、自分のガラス工房を持ちたい……そう思ったんです」
自分のガラス工房?
それはつまり、アサミヤ硝子の後継者を下りるということだろうか?
大企業を動かす権利を自ら放棄するとは愚かだという人もいそうだけど、私は素敵だと思っていた。