肉食系御曹司の餌食になりました
「いいですね」と彼の誘いに乗り、幟の立つビルへと入っていく。
中はサラリーマンとOLに支えられてそうな飲食店が数件入っており、ラーメン屋は奥の方にあった。
赤い暖簾を潜ると、まだ十二時前だからか、席は半分しか埋まっていなかった。
「らっしゃいませー!」という店員の威勢のいい声がして、空いている席にそのまま進もうとしたら、「亜弓さん、食券を先に買う方式のようですよ」と支社長に呼び止められた。
たしかに入口横に食券販売機が置いてある。
支社長と並んで食券販売機の前に立つと、彼が当然のように自分の財布から三千円を入れていた。
「いつもすみません」と口にして、申し訳なさを感じつつ醤油ラーメンのボタンを押す私。
「亜弓さん、トッピングは?」
「いりません」
「そうですか。では私は……」
長く男らしい指が味噌チャーシュー麺大盛りを押し、トッピングにさらにチャーシューと、肉餃子二人前を選んでいた。
今の私はもう、驚くことなくそれを見ている。
支社長と仕事で外出するたびに、なにかしら食べてから社に戻る。
それが昼時じゃない場合、私は珈琲とケーキくらいで済ましても、彼はハンバーグステーキや厚切りベーコンのホットサンドなど、しっかり肉を食べるのだ。