肉食系御曹司の餌食になりました
黒縁眼鏡に、ひとつに束ねただけのストレートの黒髪。
メイクは『してる?』と聞かれるほどに薄く、オフィススーツはいつも紺色のパンツスーツ。
こんな地味な私は可愛らしさから遠く離れた存在で、適当な言葉でからかうのはやめてほしいと思っていた。
それなのに支社長は私との距離を半歩詰め、魅惑的な笑みを浮かべて言う。
「あなたはとても可愛いですよ。
私が口説きたくなるほどに」
急に色を灯した瞳と、その顔に似合いすぎる甘い台詞に、思わず心臓が跳ねた。
でも間に受けて動揺するほど、私は子供じゃない。
この人はいつもこんなふうに女性をからかって楽しんでいるだけで、本気じゃないと分かっているから。
呆れの視線を向けると、支社長は苦笑いする。
「業務中なので、口説くのはやめておきましょうか。亜弓さん、はい、これをお願いします」
渡されたのは十数枚のA4紙。
うちの事業部から提出した新企画、『地元ガラス職人との合同展示販売会』に対し、支社長の否決の印を押されて戻ってきたものだ。
ご丁寧に、否決の理由を事細かに赤字で書き込んでくれている。