肉食系御曹司の餌食になりました
可愛くないのは自覚しているけど、恋愛の話が嫌いなわけではない。
智恵が今の彼氏に片思い中だった頃はよく相談に乗っていたし、たまには恋愛物の映画も観る。
ただ私の恋愛話で盛上がられるのが性に合わないだけ。
事業部に戻ってくると時刻はちょうど正午で、ドア近くの智恵の席で相談する。
「お昼、どこ行く?
丸駒屋かポポスにしない?」
丸駒屋は和定食の店で、ポポスはスパゲティ屋。
両方とも会社から程近く、かつ安いのでよく利用している。
うちの社は二十階建ての商業ビルの四〜六階を借りていて、社食がないのが残念だった。
「うーん、今日の気分は丸駒屋かな」と智恵が返事をしたとき、山田係長が近づいてきて、彼女の頭にクリアファイルをポンと乗せた。
「なにが丸駒屋だ。
杉森、チーム会議を始めるぞ」
「あっ」と声を上げた智恵の顔を見ると、すっかり忘れていた様子。
同じ事業部でも私達は今、別のチームで仕事をしているので、毎日一緒にお昼休みに入れるわけじゃない。
会議が続いて大変だねと思いながら、「じゃ、お先に」と智恵から離れ、ひとりでお昼を食べに行くことにした。