肉食系御曹司の餌食になりました
すると頭を撫でてくれた手が、布団の中から私の手を引っ張り出して、指を絡めて繋いでくる。
安心を与えるような落ち着いた低い声で、彼は語り出した。
「自分のスタイルを持っている亜弓さんは、魅力的な女性です。周囲に流されずに、自分らしく自分の望む方を向いて、しっかりと生きています。
それに比べて私は、親の敷いたレール上を歩くだけ。私の目にはあなたが眩しく映り、尊敬の念が湧いてきます」
地味という、他の男性からはマイナス評価のこのライフスタイルを、上手に褒めてくれた彼。
尊敬するとまで言われては、私を求める気持ちを疑うことはできない。
そのことに安心して喜んだ後には、『親の敷いたレール』という言葉に引っかかった。
頭に浮かぶのは、ステンドグラスの美しい教会で語られた夢物語。
彼の望む未来はアサミヤ硝子の経営者になることではなく、自分ひとりの力とセンスで勝負するガラス職人。
物質的に豊かな環境に育っても、親の愛情を感じられずに育ったせいか、温かな家庭を築きたいという結婚願望もあるようだ。
しかし、レールから外れることのできない大人の事情が彼にはある。
部外者の私なんかが安直に口だすべきではないと分かっていても、「ガラス職人、やればいいのに……」と独り言として呟いた。