肉食系御曹司の餌食になりました
「言ったでしょう? もう遅いと」
「支社長はまだ三十二です」
「先月三十三になりました。
最近、思うんです。あと十年早くあなたに出会えていたなら、若者の身勝手さを理由にして、生き方を変えられたんじゃないかと……。
心配してくれてありがとうございます。亜弓さんは優しいですね」
寂しく笑う彼に優しいと言われ、心がチクリと痛んだ。
優しさではなく、狡いことを考えていた。
彼がレールを外れてくれたら、ずっと側にいられるかもしれないと思い、口出ししてしまった。
札幌支社の赴任期間は、後どれくらい残されているのだろう?
数年の修行期間の後に本社に戻って重役の座に着き、行く行くは代表取締役社長になる彼。
きっと向こうには彼に相応しい女性が用意されているだろうし、東京に帰るときが、この恋の終わりだと予想していた。
それを昨日までの私は『遊んで捨てられる』と酷い言い方をしていたけれど、今はそう思いたくない。
札幌にいる間だけは、本気で私を求めてくれたと思いたい。
今までは正体がバレたくないというストッパーがあったが、それが外された今は恋心が急加速中で、彼の想いを疑いたくなかった。
いつか離れる日が来ても、この人と付き合えてよかったと思える恋愛がしたい。
彼には、私と付き合ってよかったと、いい思い出にしてもらいたい。