肉食系御曹司の餌食になりました
それから四十分後、本番前の最終打ち合わせが終わり、広い会議室内には私と支社長だけが残っていた。
ホワイトボードの自分で書いた文字を消しながら、ノートパソコンを閉じようとしている彼に話しかける。
「本番の夜は、クリスマスイブと土曜が重なって、集客率も高そうですね」
「そうですね。ご結婚されるおふたりの招待客は三十名と少ないですが、道行く観光客や市民が足を止めるでしょう。八丁目会場は溢れるほどの人だかりになる気がします」
広報部の人が宣伝に力を入れてくれたこともあり、通りすがりじゃなく、公開ウェディング目当てにやって来る人も大勢いそうな気がする。
土壇場で、警備人数を十名増やすことにしてよかった。
マスコミの取材申し込みも数件入っているし、なんとか掛けた金額に見合う宣伝になりそうな予感。
後は実際に、発光、蓄光ガラスの販売促進に繋がれば……。
ホワイトボードの文字を消し終えて「事業部に戻りますね」と声をかけたら、立ち上がった彼が私を腕に抱く。
「ステージにも立てないほどに忙しくして、申し訳ありません」
「仕方ないですよ。今が大詰めなんですから」
企画が始動してからの七ヶ月ほど、ずっと忙しい日々を送っていても、アルフォルトの日は支社長の配慮で残業せずに済んでいた。
しかし、さすがにウェディングの本番が迫ると、そういうわけにいかない。
今週のステージは火曜日に頼まれていたけど、無理だと思って別のシンガーに代わってもらった。