肉食系御曹司の餌食になりました
二階建ての白い建物が雪と同化して霞んで見える。
白い息を吐き出してガラスのドア前にたどり着いたのは、約束の十分前。
ちょっと早いけど、外で待つのは寒いから入らせてもらおうと、厚手のベージュのコートを脱いで雪を払って小脇に抱え、扉を開けた。
ドアベルが鳴り、すぐに花村さんが出て来てくれると思ったのに、誰も出て来ないばかりか、なにか様子がおかしい。
パーテーションで隠された奥のテーブルスペースから、言い争うような声が聞こえてくる。
「ひどいよ遼くん! もうそういうのには行かないって約束したのに、嘘つき!!」
「仕方ねーだろ。男の付き合いってもんがあんだよ。キャバくらいで喚くな」
「キャバクラ嬢とイチャイチャしながらじゃないと駄目な付き合いって、意味分かんない!
遼くん、私のこと大事じゃないの?」
これって……うちの企画で挙式予定のカップルの会話に間違いない。
そこに花村さんの「落ち着いて下さい!」「座って話しましょ?」と慌てる声が加わり、ただならぬ雰囲気だ。
慌てて駆けつけると、花村さんはほとほと弱った顔をして『どうしましょう?』という目を向けてくる。
喧嘩中のカップルはと言うと、彼はふて腐れたような面倒臭そうな顔で彼女に背を向けて座っていて、彼女の方はその背をポカポカと叩きながら涙目で文句を言い続けていた。