肉食系御曹司の餌食になりました
私の言葉で、怒りをぶつけていた彼女の動きがピタリと止まった。
その顔からは怒りが消え、彼の背中を叩いていた腕を静かに下ろし、「そっか、結婚したら一生一緒にいるんだ……」と、しみじみと呟いている。
彼の方も「ずっと一緒に……」と私の言葉を口にして、その後はなにかを考えているように黙り込んだ。
喧嘩は収まったようで、花村さんと顔を見合わせてホッと息を吐き出す。
しかし、その直後にふたりが声を揃えて「結婚やめます!」と言うから、さっきよりも慌てふためくこととなった。
椅子を鳴らして立ち上がり、出口に向けて歩き出す彼。その後ろに彼女も続く。
花村さんとふたりで慌てて前に回り込み、行く手を塞いで説得した。
「待って下さい! ドタキャンされたら、私達は困るんですよ。この企画は最終段階に入っているし、もう後戻りできないんです」
「あんたらには悪いけどムリ。
こんなヒステリー女と一生一緒にいられるかよ」
「はあ? こっちの方がムリだから。遼くんは嘘ついて約束破る人だった。結婚する前に気づいて本当によかったよ」
立ち塞がる私達を押し退けるようにして、ふたりは外へ出てしまう。
「待って下さい!」と声を上げても足を止めてくれる気配はなく、ふたりの姿が雪の中に霞んで見えなくなった。
店内に戻り呆然と入口で立ち尽くす私に、花村さんが「どうします?」と問いかけてきた。