肉食系御曹司の餌食になりました

どうするって……どうすればいいのよ。

大きく息を吐き出して、ポケットからスマホを取り出すと、支社長に電話をかけた。

私にはこの最悪な状況を打開する案は見つけられそうになく、報告して指示を仰ぐ以外になにもできない。


コール音は五回鳴り、仕事中で出られないのかと諦めかけたら、彼の声がした。

『掛け直します』とひとこと言われて通話は切られ、それから三十秒ほどして着信がきた。


『亜弓さん、どうしましたか?』


その頼れる深みのある低い声を聞くと、幾らか心に落ち着きが戻ってくる。

支社長なら、きっとなんとかしてくれる。そんな縋る思いで事情を説明した。


「ということになって、結婚をやめると言われてしまいました。私の力不足で申し訳ありません。
この後、どうしたらいいんでしょう? 企画を中止の方向で進めるしかないんでしょうか?」


中止を決めたとしても、各方面への連絡とお詫びなど、また忙しくなる。

それにアサミヤ硝子の名前に傷をつける結果となるし、コラボしてくれるこのブライダル会社にも同じように傷が付く。


説明を終えた後は、溜息しか出てこない私。

一方、スマホの向こうの彼に動揺はなく、「やはりそうなりましたか」と、あらかじめ予想していたかのような返しをされて、その後に頼もしい言葉をくれた。



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